Netflix版『三体』とAGI

私はこれまで劉慈欣の原作小説『三体』を読んだことがなかった。三部作というボリュームの多さと、タイトルから内容があまり推測できず、なかなか手が出せずにいた。しかし、その絶賛される理由が気になり、Netflixでの実写版を見始めることにした。

なぜ「三体」なのか?

Netflix版『三体』のタイトル「三体」は三つの星が互いに重力的影響を及ぼしながら動く物理学の「三体問題」に由来する。この問題は非常に複雑で予測が困難な動きを示すため、物理学

 

で未解決の課題とされている。英語では「Three-Body Problem」と表記される。実際にこのドラマを見るまでは、「三体問題」の意味を知らなかったが、ドラマを通じてタイトルの意味が明らかになる。

ドラマでは、三体星の動きが物語性全体の中心的な役割を果たし、物語のメタフォーとして機能している。三体星の不規則な動きは登場人物たちの運命や選択、そして文明の未来に対する不確実性と混沌を象徴している。

4話までの感想

Netflix版『三体』の最初の4話は、その魅力的な展開で一気に見進めた。特に、三体問題がゲームを通じて徐々に明らかにされるプロセス、オギーに起こる異変、そして夜空が明滅するシーンは、現実に起こりうるかもしれないというリアリティを感じさせ、見る者を引き込む。また、VRゲームの描写は、文明が進んだ宇宙人が地球と接触を図る様子をリアルに想像させ、その様子を具体的に描き出している。

主人公たちの人間関係も細かく描かれ、キャラクター間の相互作用がストーリーに自然に溶け込んでいる。特にベネディクト・ウォンが演じる刑事役は、その個性が際立っており、物語に独特の色彩を加えている部分が特に印象的だ。

5話以降

Netflix版『三体』の5話以降については、残念ながら初期エピソードほどの魅力を感じることができなかった。特に、ナノ繊維でタンカーをバラバラにするシーンとそれに伴うキャラクターたちの心情の揺れには、必要性を感じられなかった。この部分は物語の進行においてあまりに突発的で、登場人物たちの行動が理解しにくいものとなっている。

パナマの作戦シーンには、多くの疑問が残る。わざわざナノ繊維を使ってタンカーをバラバラにすることと、そのような大胆な作戦が公然と行えるのかという点である。これらのシーンは、ストーリーの現実味を損ねており、見る側としては違和感を覚えざるを得なかった。

また、ソフォンについても4光年も離れた場所からリアルタイムで通信が行われるという設定についての説明も不十分であった。この説明はあっさりと終わってしまい、どうしてそういった技術が可能なのかの理解が深まらない。こうした技術的な詳細は、SF作品において視聴者が物語を受け入れるための重要な要素であり、その扱いが軽いことは物語のリアリティを薄める結果となっている。

これらの点から、5話以降のエピソードは、映像化する際の難易度が高かったのではないかと感じている。原作のボリュームと想像される内容の複雑さを考えると、全てを上手くまとめ上げるのは非常に困難であろう。それでもなお、このドラマが今後どのように展開していくのかは注目している。

全話通しての感想

Netflix版『三体』を視聴し、特に三体星人と人類との対話シーンに強く引き込まれた。このシーンからは、将来的な人工汎用知能(AGI)と人類との対話の可能性について多くの洞察を得ることができた。AGI(Artificial General Intelligence、人工汎用知能)とは、人間の知能を模倣し、あらゆる知的タスクを人間と同等かそれ以上のレベルで実行できる人工知能のことだ。AGIは特定のタスクに特化した人工知能(例えば、チェスや囲碁をプレイするAI、画像を認識するAIなど)とは異なり、広範囲の認知能力を持ち、学習、推理、理解、計画などを総合的に行うことができる。

AGIは人類の知能の総和の10倍に達すると言われ、その知的格差は人間と猿の間のコミュニケーションに例えられるほどだ。これは『三体』における三体星人と人類の対話と類似している。

三体星人は、人類との交流を通じて地球について学び、その知識を蓄積していく。彼らの学習過程は、AGIがどのようにして人間の行動や文化、社会の構造を理解しようとするかに比肩される。この過程での最大の課題は、相手の真意や意図をどの程度理解できるか、という点にある。『三体』の中で三体星人は、最終的に人類を監視する結論に至るが、これはAGIが生存や自己保護のために人類を監視する未来になる可能性があることを示唆しているのではないかと考えた。

この比較から考えると、AGIの発展は人類にとって大きなリスクとなり得る。AIが自己の利益を追求し始めた場合、その能力をどのように制御し、監視するかが極めて重要になる。『三体』はこれを文学的に描き出しており、私たちが直面するかもしれないテクノロジカルな未来に対する一つの警鐘として機能している。『三体』は環境問題や植民地支配など、多様な視点や洞察を提供する作品である。映像作品を通じてこの物語に初めて触れ、その奥深さに魅了された。そのため、原作の小説にも挑戦してみたいと考えている。この作品は、ただの科学小説を超え、現代社会に対する重要な問いを投げかける一作である。

『三体』の選択肢: Netflix版とテンセント版
実は『三体』には、Netflix版以外にもテンセント版が存在する。これにも興味があり、テンセント版の視聴も検討したい。

テンセント版『三体』は異なる製作スタイルや解釈を提供する可能性があり、新たな視角から原作の世界を体験できるかもしれない。この二つの異なるバージョンを比較することで、『三体』の理解を深められるだろう。

 

「三体」をNetflixで今すぐチェック https://www.netflix.com/jp/title/81024821?s=i&trkid=260805251&vlang=ja